頭の柿の木
昔、あったじもな。旦那衆(侍)の下男がおがみ様(おかみさま)がら江戸の旦那様の所さ使にやられるど、その往来にいづれでも寄って酒を飲む茶屋があって、飲んでは酔ったくれで店先で日暮まで寝ていた。茶屋の嬶様(かかさま)に、「さあ遅ぐなたから起ぎて行げ」といわれて急いで帰るのであった。ある日、その下男はいつもの通り、酔ったぐれで店先ぎさ寝ていると、近所の和子(侍の子)たちが五、六人づれで茶屋さ来て、柿を食いながら寝でいる下男の禿頭(はげあたま)さ柿の種をびたびたとぶ附けたども、下男はそれを知らないで起こされて帰って行った。ところが下男の禿頭さ柿の木がおえで、いつの間にか柿が生って赤ぐうんだから下男はこれをよいことにして茶屋さ来て、「嬶様し、俺の頭がら柿をとって、それあだい(価)飲ませてけろ」とて、酒を飲んで酔だくれで、また日暮まで寝で行った。
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